伊藤佐千夫
1864年8月18日、上総国武射郡殿台村生まれ。1913年7月30日、死亡。
野菊の墓
新潮文庫 (1955.10.25)
- 野菊の墓
僕の家は、矢切りの斎藤と言えば分かるこの界隈の旧家であり、
母親と兄夫婦、従妹の民子、それに作おんなのお増と一緒に住んでいた。
お民は、僕より二つ年上の十七歳であったが、僕達はよくふざけあって
暮らしていた。
そんな時、兄嫁が母に注意したらしく、二人して怒られてしまった。
それ以来、お民の様子が変わったが、それは今まで以上に互いを
意識してきたためであった・・・
- 浜菊
東京から柏崎へ旧友を訪ねてやってきた私。
去年までは気持ちよく過ごしたのだが、今年は少し雰囲気が違う。
友人の岡崎も、彼の妻も、どことなくよそよそしい・・・
- 姪子
どこかの鍛治屋で山刈りを一丁と草刈りを二丁買ってきて欲しいと言われ、
暑くなる前にと暗いうちから出掛けた。
途中、まだ夜明け前に村の外れの畑を通りかかると、十四五の小娘が
草刈りをしていた。
ご苦労なことだと思って家の様子を聞いてみると、おとっつぁんが
永らくぶらぶらしているから困っていると言う・・・
- 守の家
四歳の暮の事。姉と、守りのお松とが自分を可愛がってくれた。
その日、遊びに出て帰って来ると、お松はいなかった。
どうやら両親は、そろそろお守りは必要ないと言っているようだ。
正月が明けてから一度、お松がやってきた。
一日中お松のそばを離れなかったが、次の日、僕が起き出す前に
お松は帰っていっていた。
その後、一度、お松の家へ遊びに行った・・・
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