北森鴻
1961年、山口県下関市生まれ。駒澤大学文学部歴史学科卒業。
狂乱廿四孝
東京創元社 (1995.9.20)
江戸時代が終わり、明治が始まった頃、市村座、中村座、守田座の三座が
集まる猿若町では、一人の役者が頂点を極めていた。
澤村田之介という守田座の立女形にわずか16才でのぼりつめた天才役者だ。
ところが彼は、『紅皿欠皿』の舞台で受けた小さな傷が元で、右足に脱疽を
患ってしまい、切り落とさざるを得なくなった。
さらに1年余り後には、左足も切断せざるを得なくなる。
誰もがもう引退を確信していたものの、本人にはその気は全くなく、
舞台を続けることとなった。
そして、『廿四孝』によって見事に返り咲いたのだ!
その影には、守田座の座主の守田勘弥、守田座の座付き作者の河竹新七、
大道具師の長谷川勘兵衛、医者の加倉井蕪庵といった人々の支えがあった。
田之介の兄の澤村訥升、勘兵衛の弟子の留吉、元南町奉行所同心の
水無瀬源三郎といった人々も、まわりから支えていたのは間違いない。
そして、蝋燭問屋辰巳屋の主、辰巳屋治兵衛の娘である峯は、
銀平という番人のいる根岸の寮から通いで新七の内弟子になっていた。
そんな大成功に終わった『廿四孝』の初日の夜、蕪庵が殺害された。
右の首筋の血脈を断ち切られ、顔を一文字に切られ、右手の三本指を
切断されるという残忍な殺しであった。
そしてこれは、約半年前に起きた高宮猿弥という無名の役者の殺害方法と
同じに見えた。
そして、これらの殺人には、画家の河鍋狂斎が描き、音羽屋の尾上菊五郎に
渡したという幽霊画が関係しているらしいという事が分かってくる・・・
狐罠
講談社 (1997.5.25)
店舗を持たない骨董商である旗師の宇佐見陶子。
それなりにうまくやっていたのだが、橘薫堂の橘氏に、贋作をつかまされてしまった。
プライドの高い陶子は、橘氏への目効き殺しを仕掛け返そうとする。
しかしそこに、橘氏の耳役であった田倉俊子が殺害され、警察の捜査が
入り込んできた・・・
狐闇
講談社 (2002.5.30)
旗師の宇佐見陶子は、平塚で開かれた市で海獣葡萄鏡二面を競り落とした。
少し高値になってしまったが、顧客から頼まれていた物は手に入れた。
ところが、この鏡を持って帰ってみると、一面が入れ換えられていた。
そしてじっと観察しているうちに、鏡の魔力に取り込まれてしまった。
しかし、自分のものにしてしまおうと思っていたとき、田中正一と名乗る男、
そして年かさの関西弁をしゃべる男の二人組が、誤って混入してしまったから
と言って鏡を取り返しにやって来た。仕方なく、鏡を返すことにした。
その前に、最後にもう一度鏡を覗いたとき、鏡面に八咫鴉の模様が現われた。
つまり、魔鏡だった。それが全ての始まりだった・・・
緋友禅
文藝春秋 (2003.1.31)
旗師・冬狐堂シリーズ第3弾。4短中編集。
時に人の生死さえ軽く扱われてしまう骨董業界。
その魑魅魍魎とした世界に生きている冬狐堂の宇佐見陶子。
彼女のまわりには特に様々な事件が発生する・・・
- 陶鬼
ツルさんこと弦海礼二郎が死んだ。
十年ほど前にある事から別れたきりだったが、無縁仏として葬られたという
警察に、出来れば引き取りたいと答えていた・・・
- 「永久笑み」の少女
陶子は、町澤泰之という作家に、ファンレターを送りつけようとしていた。
そこには、堀り師と呼ばれるある人物の死が関連していた・・・
- 緋友禅
東銀座でふと立ち寄った作品展。
そこで展示されていた久美廉次郎の作品に心を奪われてしまい、
その場で売買契約を結び、金額を払ってしまった。
しかし、作品展が終わっても、作品が送られてこない・・・
- 奇縁円空
これまでにも何品か収めていた瀧川家から、コレクションを処分したいと
連絡を受けた。
そこで見かけた円空仏。
それが、その後の陶子の運命を変えた・・・
瑠璃の契り
文藝春秋 (2005.1.15)
旗師・冬狐堂シリーズ第4弾。4つの短編集。
またまた、旗師の宇佐見陶子の元には厄介事が舞い込んできます。
- 倣雛心中
旗師としては非常に重要な目を少し患った陶子。
もちろん隠してはいたが、狭い世界、いつの間にか噂話が広まっている。
そして、そこへ悪意を持って付け込んでくる奴がいた。
北崎濤声の正真物の和人形。
ところが、一年のうちに三度も返品されたと言う・・・
- 苦い狐
突然届いた小冊子。
陶子の大学時代の親友であり、作品と共に命まで火災で亡くしてしまった
杉本深苗の追悼画集であった。
誰が、一体何の目的で、こんなものを作ったのか・・・
- 瑠璃の契り
九州の小倉でふと立ち寄った角打ち屋。そこで見つけた瑠璃ガラスの切り子碗。
良いものを手に入れたと思って東京へ戻ってくると、親友の横尾硝子が
もの凄い勢いで興味を示した・・・
- 黒髪のクピド
かつて陶子の夫だった男、プロフェッサーD。
最近彼から、川崎市で開かれる競り市に出品されるある人形を競り落として
欲しいと頼まれた。それは、幕末から明治あたりに作られた生き人形であった。
そしてそのすぐ後、プロフェッサーDは姿を消した・・・
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