中井英夫

1922年9月17日、東京都生まれ。東京大学文学部言語学科中退。1993年12月10日死亡。


虚無への供物
講談社文庫 (1974.3.15)・・・講談社 (1964)[塔晶夫]

氷沼家には、死人の業が住み着いているようだ。 誠太郎氏は昔、アイヌ狩りをやったという噂があり、その後行方不明に。 その子の光太郎は、とにかくあちこち飛び回る旅行家であり、そして 莫大な財産を築きあげた。 妹の綾女は大使を勤めた方と結婚するも、身内の縁が薄くて、現在は 戸塚の老人ホームにいる。 光太郎の子は三男一女の紫司郎、朱実、橙二郎、菫三郎。 光太郎は紫司郎の子、蒼司と紅司が生まれると、自分は紫司郎に店をまかせて 隠居する。しかし、紫司郎は元来の植物好きで経営は苦手であった。 そこで、光太郎はやはり自分でも事業をしたくて、函館へ支店を開いたところ、 大火にやられて焼け死んでしまう。 朱実には昔から、とりまきが多くいたが、その中の一人と駆け落ち状態で 広島へと家出する。 黄司という子供を設けるが、原爆の被害にあって、生存は絶望。 また、菫三郎には藍司という子供がいた。 そこへきて、紫司郎と菫三郎両夫婦が、洞爺丸事件で亡くなってしまった。 目白の豪邸に残された蒼司と紅司、それに藍司の所へ、橙二郎が転がり込み、 これから生まれるという子供に緑司という名前を付けた。 光太郎の築いた財産には宝石も多く、それぞれの色の名前を持った子供は その色の宝石をもらえるという習慣があったからだ。 橙二郎は、他の住人、特に蒼司とはあまりうまくは行っていなかった。 そんな時、密室中で紅司の死体が発見された。 事故なのか、自殺なのか、それとも他殺なのか? 蒼司と藍司の友人である光田亜利夫は、彼の友人である奈々村久生にせがまれ、 事件に拘わって探偵の真似事を始める事となった・・・



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