山田詠美
1959年、東京都生まれ。
ぼくは勉強ができない
新潮社 (1993.3.25)
- ぼくは勉強ができない
「新潮」1991年5月号
僕、時田秀美には、父親はいない。母と祖父に育ててもらっている。
クラス委員は、三票差で脇山茂に決まった。彼は成績はいつもトップ。
でも、彼は女にもてない。こんな重要なことはないのに。
- あなたの高尚な悩み
「新潮」1991年7月号
僕と同じサッカー部の植草は、高尚な悩みにうつつを抜かしている。
虚無感、カミュ、空虚、退廃、アイデンティティー・・・
そんなある日、彼は踝の骨を折った。それで気付いた。
そう、一番大切なものは、目の前の空腹感、痛み、、、そんなものだ。
- 雑音の順位
「新潮」1991年9月号
同じクラスの後藤が、突然、政治家になると宣言した。
訳を聞いてみると、米軍基地の近くに住んでいるため騒音が激しく、
それをどうにかしてやるというものらしい。
クラスの他のみんなは、いろいろ騒音で困っているらしかったが、
今の僕にはもっと重要なことがある。
そう、先日、恋人の桃子さんのところへ行ったとき、中に男の気配がしたのだ。
- 健全な精神
「新潮」1991年11月号
幼なじみの真理が、とうとう停学になった。暇だから遊びに来いという。
しかたがないから行ってやって、そこで話をした。
そう、今僕は、桃子さんとの事で、迷いに迷っているのだ。
彼女は言う。「秀美はねえ、要するに健全すぎるのよ。」
- ○をつけよ
「新潮」1992年1月号
小春日和の祭日、家で家族三人でワイドショーを見ていた。
芸能人の結婚・離婚、愛欲がらみの刃傷沙汰等が流れている。
朝帰りは悪いこと?人殺しした方には理由を聞かない?
そう、世間の人は、画一的な見方を教えられ、それを確認することで
安心するのだ。
本当にそれでいいのだろうか?
- 時差ぼけ回復
「新潮」1992年4月号
朝、目が覚めたら風邪をひいていた。夕方、田嶋が見舞いにやってきた。
そこで、、、片山が自殺したと聞かされる。
そういえば片山は言っていた。
人は本来、25時間を一日の周期として生きる動物だと。
それをむりやり24時間に押し込めようとするから無理が出る。
残りの一時間をめぐって、時差ぼけの出てくる人がいるというのだ。
- 賢者の皮むき
「新潮」1992年8月号
どの学年にも、とび抜けて容姿の良い女の子たちが2、3人いる。
でも僕は、彼女達を今一つ好きになれない。
彼女達は、自分で自分を可愛いと思っていて、自分を好きでない人なんて
いないと思ってる。
もちろんそのための努力は凄いと思うけど、自然じゃない様子に
歪みを感じてしまうのだ。
そんな一人、山野舞子に、友人川久保は告白すると言う。
ところが、ひょんなことから自分がキューピット役を務めることに
なってしまった・・・
- ぼくは勉強ができる
「新潮」1992年12月号
進学するか、就職するか、いよいよ決めなければならない時期になってきた。
僕にはどちらがいいのか良く分からない。そして、焦燥感を感じている。
そんな時、祖父が倒れた。幸い、大したことはなかったが、
時は容赦なく流れていることを思い知らされた。
- 眠れる分度器
「文芸」1992年秋号、冬号
隣の赤間ひろ子さんは、三角定規を持って来ていなかった。
聞いたら、持ってくるのを忘れたと言う。
先生は、「これを使え」と、何げなく渡していた。
その時、気がついた。そう、給食の後いつも彼女は、鳥の為にと言って
パンを集めていたではないか!
彼女の家庭は、三角定規を買えない程貧しい家庭だったのだ。
今まで気付かずにいた自分が情けなかった。
と同時に、自分以外のクラスのみんながそれを知っていた事に衝撃を受けた。
そして、その日、いつもは渡さないパンを彼女に渡すと、彼女はそれを
ひっつかんで投げ返し、泣きふしてしまった・・・
風味絶佳
文藝春秋 (2005.5.15)
- 間食
『文學会』2004年1月号
小さく丸くコロコロしている花、ちょっと独特の雰囲気を持つ寺内、
母のように全てを包みこんでくれる加代。
これら人々に囲まれて雄太は・・・
- 夕餉
『文學会』2004年4月号
家のつり合いだけで結婚した私。そしてついていけなくなった。
そんな時、ゴミ収集の作業員、紘と話をした。
そして今、元の家を出て、紘の所へ転がり込んで生活している。
私の使命は、彼を食べさせること・・・
- 風味絶佳
『文學会』2004年7月号
アメリカかぶれの祖母、不二子。
高校卒業に際し、大学へなど行きたくないと思った志郎は、ガソリン
スタンドで働こうと思ったが、両親に反対され、祖母に応援を求めた。
そして何とか、希望通りガソリンスタンドで働き始めた・・・
- 海の庭
『文學会』2004年10月号
私が高校へ入学することが決まったのと同時に、両親が離婚した。
そして母が実家へ帰る引っ越しにやってきた業者の人が、作並くんだった。
母と作並くんは幼なじみ。
だから本当は、作並くんなどと気安く呼んではいけないのかもしれない・・・
- アトリエ
『文學会』2005年1月号
汚水槽等の清掃作業を仕事としている私。
妻の麻子とは、あるバーでの作業のときに立ち会いをしていた時に
初めて出会った。
その後、特に気にはしていなかったが、ある日そのバーの近くを通った時、
ふと思い出して友人を連れて入った時に再び出会った。
その時に話をして、暗いながらもなんとなく気になる存在になった・・・
- 春眠
『文學会』2005年4月号
章造は大学時代、同級生の弥生が好きだった。
しかし、彼女にはボーイフレンドがいたために、告白はせずにいた。
そして妹の加江と弥生が仲良しになり、たびたび自分の家に遊びに来るのを
好ましく思っていたのだが、ある日突然、弥生は父の梅太郎と
結婚すると言いだした・・・
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